最新情報  レポート  登山  バリエーション  ブログ  プロフィール

2012年2月19日 犬帰し谷@御池岳(鈴鹿)   ホーム

 

犬帰し谷@御池岳(鈴鹿)2012年2月19日 No.650 はりまおさん、とっちゃん、隊長
〜不明者捜索のために犬帰し谷を遡行し、丸尾を下るも手がかりなし
犬帰し橋(8:36)〜犬帰し谷〜大滝(9:15)〜巻き〜犬帰し谷(11:20)〜大滝 (11:40)〜県境稜線P1054(14:06)〜丸尾〜P906(14:53)〜国道(16:02) 捜索ルート

 大貝戸にある藤原岳登山休憩所が対策本部になっている。ミーティングが7時から行われるため、県警を始め、山岳連盟、有志などが続々と集合した。本部より、不明者に関する服装や装備などの情報、これまでの捜索活動の状況などの説明があり、本日の活動について説明があった。朝の時点で、下山時(2月12日)朝6時30分に、今から下山すると家族に携帯連絡しているという情報のみだったので、山域を絞りきれず、捜索範囲は、藤原岳、御池岳、鈴北岳を中心とした登山道に沿った部分になった。それから、経験は浅いが、前の週に峠まで下見に行っていること、ビーコンを持っているらしいことなど、慎重に行動する人のようだ。もし道に迷っても、不用意に谷や枝尾根に深く入り込まないと思われる。


それぞれの分担山域へ出発。撮影はりまおさん


 警察や岳連は引き続き、登山道を中心に捜索するようなので、我々は、少人数の機動力を生かし、未捜索の谷に入ってみることにした。この1週間で丹念に登山道周辺は捜索済みとのことなので、谷に入り込んでいることも考えられる。といってもどこの谷に入ればいいか、皆目見当がつかない。とりあえず事故の起こりやすい危険な谷ということで、犬帰し谷を見ることにした。まず入り込むことはないと思うが、稜線付近で見つからなければ、谷をひとつひとうつぶしていくしかない。

  
犬帰り橋の手前           橋の下に降りる

犬帰シ谷
西尾本によると、惟喬親王の犬が登れず引き返したという伝承があるような。確かに犬も登るのは無理で、険悪な様相を呈した涸れ谷だ。谷底はすごい景色で、大岩が重なって乗り越すのに戸惑う。右より細い滝がかかっている。左にガレがあって奥に14mの困難な滝があって手間どる。・・・・

 捜索の車両が入るので国道306号線の山口ゲートは開けられた。ハリマオさんの車に乗り込み、圧雪にタイヤを滑らせながら犬帰り橋まで進んた。
 さて、犬帰り谷だが、大変険悪な谷で、あまり人の入らない谷だ。もちろん、私ととっちゃんははじめだが、ハリマオさんが3回目の入渓となるので心強い。橋の上から谷を覗き込むとかなりの高さだ。橋のたもとに固定ロープが垂れているので、それを使ってまずは一段下に降りる。後は急斜面をピッケルで確保しながら慎重に下り谷まで降りた。

   
正面に犬帰り滝が立ちはだかる

   
写真を見ていると登れそうだが、支点をとらないと無理 とっちゃん撮影

 大きな岩の転がる難儀な涸れ谷だが、雪が閉まってきているので、比較的歩きやすい。100mも進むと正面に犬帰し滝に進路を阻まれた。写真ではわからないが高さは5m以上あり、正面突破は無理だ。右の岩壁は垂直に近いチムニーで濡れている。弱点は左の岩壁だが雪が乗っている。一段上がり直下から見上げると上部はハングしている。なんとかスタンスとホールドはとれそうだが、支点が取れない。登攀具は準備してきたが、ハーケンとカムは準備してこなかったので、ここの突破は無理と判断。次の可能性は少し戻って右岸の急なルンゼ。雪が凍りついているので、アイゼンとピッケルが気持ちよく決まる。


とっちゃんを確保する隊長

   
ルンゼの登攀 1ピッチ目20m とっちゃん撮影


2ピッチ目30m


 ハリマオさんがはじめの1ピッチ20mをフリーで登ったが、危険なのでロープを出して、私ととっちゃんがスタカットで中間に支点を二つとり、支点の取れ岩まで20mロープを伸ばす。2ピッチ目は、そのまま直登を試みるが岩肌でアイゼン滑りだしたのでクライムダウンし、雪面のトラバースに切り替える。立木で2か所支点をとりロープいっぱい30m伸ばし、ロープを固定する。ハリマオさんがブルージックで続き、確保でとっちゃんが続いた。そして最後はアイゼンとピッケルを効かせ、丸尾から派生する尾根に出た。しばらくこの尾根を進み、再び急斜面を下って犬帰し谷に降りた。この大きな高巻きで2時間とかなりのパワーを使ってしまった。 本部から無線で、午後から県警ヘリが飛ぶと連絡が入った。


捜索に来た県警のヘリ、あまり長くは飛ばなかった


高巻きを終え、再び谷に下る

  

 谷に降りてからザックをデポし滝の上部まで戻ったが、危険な箇所なので、普通ならここを下ろうとは思わないだろう。滝の上部には炭焼き窯跡があった。ケルンが積まれているところを見ると、人が入っているようだ 。

   
徐々に谷は浅くなるが、相変わらず険しい

 登山道を歩いて不意の事故に遭ったということであれば、捜索は登山道周辺になる。不意の事故とは何だろう。登山道からの踏み外しの可能性は、御池岳から駐車地の大貝戸休憩所までのルートで考えられるのは。一般登山道は、鈴北から鞍掛峠、カタクリ峠からコグルミ谷、木和田尾根、藤原岳から大貝戸コース、8合目から聖法寺コースがある。などを考えながら谷を詰めて行った。時計を見ると12時を過ぎていた。もう少し距離を稼いでから昼食を摂ることにした。


谷を巻くにも難儀した

 本部から無線で現在の状況報告を求める連絡が入る。深い谷だが中継局が設けてあるので、問題なく通信できた。各隊の無線も入ってくるので状況がよくつかめた。適当なところで昼食休憩する。谷は550mあたりで二つに分かれ、右の谷がカタクリ峠あたりまでつき上げている。左が本流で緩やかに進むとまた二俣になっている。右も左も谷は険しい。左の谷を進む。谷の右岸は傾斜がきついので、谷を覗き込みながら、少し大きくトラバース気味に進む。徐々に谷は浅くなり、丸尾に吸収されていった。急斜面の連続登攀で筋肉の疲労が顕著だ。県境稜線の1054ピークまで標高差200m。疲労がピークに達し踏ん張りどころだ。稜線も近いし、丸尾への迷い込みも考えられるので、あたりを見渡しながら稜線を目指した。


やっと稜線のピークに到着14時を過ぎていた


やっと冷川岳到着14時を過ぎていた、やれやれ

 P1054荷ケ岳に14:06到着。厳しい犬帰り谷だったが、不明者の発見には至らず、トレースなどの痕跡も見つけることが出来なかった。ピーク北側の平坦地に雪がならされた跡があったが、誰かが休憩したのだろう。本部に無線で捜索結果を報告し、丸尾で下山を開始した。このころから本部と藤原岳方面とも無線通信が盛んになってきた。何か情報でも入ったのか、大貝戸8合目あたりを重点的に捜索している様子が無線から聞こえてきた。 (跡で聞いた話だが、どうやら下山の日の12日に大貝戸の8合目での目撃情報があったようだ。真偽はいかに。)


丸尾の雪庇

 さて丸尾だが、トレースが少しあった。この尾根はあまり使われない尾根だが、それでも、少し山慣れてきた人なら一度は歩いてみたいと思う尾根で、P1054から緩やかに下っている。迷い込みがあるかもしれないと思い、尾根の両側を確認しながらP906まで下った。


深い谷が何本もある

 さてここからは右の尾根が丸尾で左が犬帰し谷右岸尾根だ。車の回収があるのでわれわれは、丸尾と別れ右岸尾根を下る。トレースは丸尾の方に続いていた。本部と無線連絡をとりながら、P96から300m下ると植林帯に入る。どの隊も下山に向かっているようだ。期になるのは藤原岳8合目の隊との頻繁な無線のやり取りだった。
 例にもれずこの尾根も末端の処理が難しい。不用意に降ると難儀することになる。最後はロープを出したが、16時05分無事に帰還した。残念ながら手掛かりはつかめなかった。大貝戸の本部に戻り、捜索範囲の報告をし活動を終了した。

    
雪庇           とっちゃんが踏み抜く


捜索状況は書き込まれたボード

 残念ながら19日の捜索では手掛かりは得られなかったようだ。不明者のNさんはどこに行ってしまったのだろう。我々は別の観点で危険な谷を捜索したが、行動を予測し重点的に捜索する方が効率的だと思う。登山経験も浅く地理に不慣れだと思うがが、ビーコン持参の可能性もある。また1週間ほど前(1月29日30日)に山口ゲートから国道を利用し鞍掛峠から鈴北岳手前までテント山行をしている。ブログを見ると慎重で計画的な山行だと思えた。登山道周辺がもっとも可能性が高いが、積雪に隠されているのかもしれない。ただ山の経験は3年でバリエーションの経験はなさそうで、地形図とコンパスで歩いた経験は少ないだろう。なので、登山道を外して歩くことは考えにくい。もし道に迷った場合、バリエーション経験がないので、想定外となり不安になるのではないか。いずれにしろ、目撃情報など、もう少しあれば山域を絞り込めるが。なんとか早く見つけてあげたい。

 

2012年2月19日 Copyright (C) 2012 k.kanamaru. All Rights Reserved.  home