■槍ヶ岳(北アルプス)2009年9月11日12日 No.506 隊長 | ページ1 | ページ2 | プロローグ 狙っていた山は特になかったが、迷っているときはやはりアプローチのいい槍と穂高に目が向いてしまう。ご存じのように、岐阜側からの登山基地は新穂高温泉、長野側は上高地になる。上高地はシャトルバスの利用が前提となるため、時間の制約を受けることになるし、バス代と駐車場代が必要になってくる。新穂高温泉はその点、無料駐車場が利用でき、時間の制約もなく経済的だ。しかし槍へのメインルートはやはり、上高地からが一般的で、登山者数も桁違いに多い。標高の点でも、新穂高温泉無料駐車場が1044m、上高地バスターミナルが1507mで、槍の標高が3180mだから、標高差で500mの差がある。登山はどちらが有利かで判断するものでもないが、山へのアプローチが多い方が楽しみも多くなるのでは。 アプローチ 自宅を19時に出発し、新穂高温泉の無料駐車場に23時過ぎに到着した。平日なので道路もパーキングも空いていたし、割引の時間を気にしなくていい。駐車場は半分ほどが空いていた。後席を倒し荷室スペースで横になる。5時前の携帯のアラームで目が覚めた。気候も良くぐっすりと眠り込んでしまったのでなかなか起き上がれない。うつらうつらしているうちに5時20分になってしまった。慌てて飛び起き、サンドイッチを口に詰め込みながら準備をし、5時30分に出発した。朝が早いので、ホテル前やロープウェイ乗り場はひっそりとしていた。登山者も右俣林道を進む人は見かけなかった。 約1ケ月ぶりのテント山行となったので、装備が重く感じられる。無駄なものは省いたつもりだがそれでも18kgほどある。荷物の量が増えると、筋肉への負荷のかかり方も違い、腰、おしり、大腿部後部の大腿二頭筋に負荷がかかってくる。30分ほど歩くとこれらの筋肉がだるくなってくるので、これは荷物が重いからだろう。日帰り軽装備の時はこれはない。今日、登る標高差は2200mあるので、体幹の太い筋肉をうまく使わなければ、足の筋肉がもたなくなってしまう。気持ちが進みすぎるとどうしても、足だけで歩いてしまうので、歩き始めの段階で意識付けするようにしている。 右俣林道 久し振りの右俣林道だった。前回は南岳からの帰路に下山で使ったことを思い出した。このコースのポイントは、穂高平小屋、白出沢出合、滝谷、槍平小屋、千丈乗越分岐で、休憩やペースの目安となる。このところめっきり、朝夕が涼しくなってきていて、標高1000mの新穂高温泉の朝の気温は10度をきっていて、歩き始めつぃばらくは体が温まってこなかった。額に汗がにじみ始めたころやっと、最初のポイントの穂高平小屋を通過した。後続に若い単独男性がついてきている。地図を見ながら歩いているようだ。一定の間隔を保ちながら白出沢出合まで進む。歩き始めて1時間50分、初めての休憩を入れ、後続の男性と話をする。この山域に入るのは初めてのようで、3日間で槍と穂高を全部やる計画のようだ。明日は天気が悪くなるので、槍と穂高間をどうするか気にしていた。風さえ強くならなければ多少の雨なら大丈夫でしょう。駄目なら一日槍で停滞して、最終日に南岳から南岳新道で下山しては、また、西穂へ行く場合は十分注して、と助言した。 白出沢から登山道に入る。コースは右俣谷左岸で、常に谷川の音を聞きながら進む。トウヒとシラビソの樹林が続き明るさはないが、暑い夏は日陰になるのでありがたい。所々に草付きの斜面があり、サラシナショウマ、タテヤマアザミ、オオシシウド、オヤマリンドウなどの秋の花が風に揺れていた。 滝谷 ブドウ谷、チビ谷を通過し、しばらく進むと幅のある滝谷に出る。谷は岩や石で埋まっていて、ルートも安定しないようだ。大きな流れには木の橋が渡されていた。谷の南側には古びた避難小屋があり、対岸には藤木のレリーフがある。藤木九三の業績は銅板の通りだ。一般登山者にとっては、滝谷といえはば、井上靖の小説「氷壁」で、主人公魚津が遭難した谷を思い出すのではないだろうか。 槍平小屋 滝谷を過ぎるとしばらく樹林歩きが続く。傾斜はまだまだゆるいが、谷が狭くなり、ゴツゴツとした岩を拾いながら徐々に高度を稼いでいく。歩いた割にはあまり標高が上がらず、4時間歩いて槍平小屋でやっと標高が2000mだ。ザックをおろして一息入れ、行動食でエネルギーを補給した。このあたりまで来ると山頂からの下山者と行き交うようになった。3年ほど前だったか、この小屋の前で雪崩による事故があったことを思い出す。雪崩は確か、西側の奥丸山からだったと思い、見上げてみる。普通の山に見えるが、冬期になると積雪のために様相が一変するのだろう。天候は下り坂に向かっているはずだが、今のところ明るい青空の上天気だ。さわやかな秋風に吹かれていると実に気分がいい。水場で水を補給する。このルートは水場が多いので、水は現地調達と決めていた。 さて次のポイントは千丈乗越分岐で、距離は2.5kmで標高差500mの行程だ。このあたりから二次曲線を描くように傾斜が増してくる。植物相も常緑針葉樹林からミヤマハンノキ、ダケカンバに代わり、森が明るくなってくる。小屋を過ぎてからは標高が100m上がるごとに手作りの小さな標識がも設けられていて、行程の目安となっていた。 「最終水場 Last Water」と書かれた水場で給水し一息入れる。これから先に水場はない。このあたりからが森林限界となり、一気に展望が開けてくる。槍の山体は見えないが、千丈乗越の岩場と奥丸山へ伸びる尾根が青空を背景にくっきりと浮かびあがっていた。稜線のダケカンバの木が印象的だった。また背後には笠ヶ岳が見えてくる。いよいよ高山域に入ったと実感できる場所だ。 千丈乗越分岐 登るにつれハイマツが多くなりやがて千丈乗越分岐に到着した。例のごとく、救急箱が設置されている。知る由もないが、過去に事故でもあり、その教訓が生かされているのだろうか。白出沢で話をした先行している若い男性が、飛騨乗越へ登っていくのが見える。他には誰もいない。このカールは独占状態で、誰にも邪魔されずじっくりと歩くことができた。 さて、分岐から千丈乗越へ向けて急峻な登りが始まる。過去に一度ここを下っているが、かなり急勾配であったことが印象として残っていた。地形図で確認すると標高差200mほどだが所要時間1時間とある。気温は低いが日差しがきつく、疲労が溜まり始めた体には厳しい。意識的に呼吸してなるだけ多くの酸素を入れてやるように心がけながら登る。急いだわけではないが30分ほどで乗越に到着した。標高差100mを稼ぐのに普通なら15〜20分なので、1時間となっている昭文社のコースガイドはかなりゆとりを持っていることになる。飛騨乗越を登路に使っても良かったが、天気が下りに向かっているので、晴れているうちに展望の良い稜線に上がりたかったのが、西尾根コース合流の理由だ。 | ページ1 | ページ2 | |
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